MIFES User Report〜仕事人たちのエディタ〜
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「組込み技術者たちの
道具として」

組込み開発の発展のために

携帯電話、オーディオ機器、家電…私たちの周りにある「電気で動くモノ」の中に、小さな部品がたくさん並んだ「基板」と呼ばれる板状のものが入っているのは、みなさんご存じだろう。
この基板と、そこについている小さなコンピュータ(CPU)で動くプログラムを開発・製作する技術を「組込み技術」と呼ぶ。
歩きながら電話ができるのも、コンビニのお弁当を「チン!」できるのも、この「組込み技術」のおかげなのだ。

データテクノロジー・藤田様

データテクノロジー株式会社・藤田泰孝さん。
オフィスの壁に掲げられている組込みミドルウェアパッケージ「Cente」のロゴの前で。

そんな「組込み」の開発を専門にされているデータテクノロジー株式会社に、藤田泰孝さんを訪ねた。
藤田さんは「Cente」というパッケージ製品の企画開発を担当されている。

「これは"セント"と読みます。『Cente』は組込み機器を開発するためのソフトウェア部品で、『ミドルウェア』と呼ばれるものです」

ミドルウェアとは、OSと固有の処理を行うプログラムの仲介役をするソフトウェアのこと。これを利用すると、基礎部分の開発に費やす時間を大幅に短縮でき、本来作り込みが必要な実処理の開発に注力できるのだという。

『日本の組込み開発技術の発展を目指す』というCenteポリシーに賛同してくれるSIer、ベンダー、パーツ製作メーカーなどのパートナー様たちと、モノ作りメーカーが求める最適な組込み開発環境を提供し続けたいと考えています」

その言葉どおり「Cente」は、家電やAV機器など身近なものから、工場、実験用、医療用などあらゆる電気機器の製造企業で利用されている。
あなたの近くにも「Cente」が入った基板があるかもしれない。


藤田さんと仲間たちの組込み話

藤田さんによると、組込み系の開発環境は、Windowsアプリケーションの開発環境ほど整っておらず、テキストエディタで開発をしている人がほとんどだという。確かにMIFESユーザーの中には組込み系の開発者も多い。
しかし、Windowsアプリ中心のメガソフト社内では、彼らがどんな風に開発をしているのかを知る術がない。
そこで事前に「組込み系の開発現場の話を聞かせていただきたい」とお願いしていたら、藤田さんは社内外から5人の組込み仲間を集めてくださっており、MIFES座談会が始まった。

――まずは組込み系の開発手順を教えてください。

阿部さん:受託開発の場合を例にお話ししますと、まずお客様から「何をする基板を、いつまでに、どれくらいの費用で作りたい」といった要求仕様をいただきます。
われわれはそれを元に、その基板で行われるべき処理のどこをハードで行って、どこをソフトで処理するのかを決め、それぞれに開発します。最後にハードとソフトの統合テストを行います。
ハードは他の会社が担当することもあり、ソフトだけの開発のときはフラッシュメモリにソフトを納めて納品することが多いですね。

――今まで私が見てきた開発は、大抵最後の方でスケジュールがタイトになってしまうのですが、みなさんはいかがでしょう?

開発デスクの上

ハードの動作を確認しながらテストをするので、机の上はご覧のとおり。
右側の四角い箱状のものがテスト用機器。

渡辺さん:われわれも同じですね。
ハードもソフトもそれぞれにテストをしてから持ち寄るのですが、はじめから思うように動くことはまずないです。
ソフトもハードもテスト段階ですから、「どこが」ではなく「どっちに問題があるか」からを調べます。

沼田さん:テストしてると煙が出たりしてね。

藤田さん:どっかショートしてるんだよね。

沼田さん:「なんか臭い」って触ったら熱い。「燃えてるぞ〜」ってこともあります。

渡辺さん:ハード側に問題がある時は、当然ハードの担当者に戻して直してもらいます。

――その時点ではまだソフトは基板に組み込まれていないと思うのですが、どうやってテストをするんですか?

渡辺さん:CPUの代わりをするICE(In Circuit Emulatorの略:アイスと呼ぶ)という機器を使ってテストします。

――組込み系のテストに使う機器があるんですね。ところでMIFESはいつ頃登場しますか?

渡辺さん:MIFESをバンバン使い始めるのはハードの問題が収束した頃からですね。ソフト側のデバッグや調整を行うときにソースをいじります。
私はgrep(グローバル検索)機能が好きです。grepの検索結果からタグジャンプして、いつも20個くらいファイルを開いて開発をしています。

庄井さん:私も「どこが問題か」を探すときなどにMIFESのgrepを使います。
12万個くらいのファイルをgrepで一気に検索して、そこの担当者に「ここがおかしい」って教えてあげる。

――12万個ですか?

藤田さん:12万個っていっても全部じゃなくて一部なんですよ。庄井さん、それ見つけてあげるんだ?

庄井さん:うん、見つけといてあげたらなおるのも早いから。

――自分の担当する部分だけでなく、ハードや他の人のプログラムに問題があるかもしれない状態での開発。
しんどくないですか?

庄井さん:体は疲れますけど「しんどい」と思ったことはないですね。徹夜もするけど、「徹夜しちゃう?」くらいのノリでやっちゃいますから…。

沼田さん:一度、駅でしかテストできないものを開発したことがあって、終電が行ってから始発電車が来るまでしかテストしちゃいけなかったんです。
テストと修正作業で3日間徹夜したことがあって、さすがに疲れましたが、嫌ではなかったですし、もうやめようとも思わなかったです。

渡辺さん:しんどいかと聞かれるとしんどいですが、面白いと言えば面白いし、やりがいもあります。しんどさとやりがいは表裏一体ですね。

――石原さんは入社して3年ということですが、入社前と今とで仕事に対するイメージは変わりましたか?

石原さん:「パソコンが使えるようになったらいいな」くらいの気持ちで就職活動をしていて、最初に内定をもらったのがこの会社で、実は入社して初めてこういう仕事があることを知りました。ソフトだけでなくハードの勉強も必要ですし、初めてのことだらけで毎日が刺激的です。(笑)

沼田さん:何度テストしても動かなかったものが、類似部品に取り換えたら動くようになったりと、ハードの部品には癖のような小さな違いがあります。そういうことを調べるためには部品のマニュアルを隅々まで読まないといけないので、自然といろんなことを学習できるんです。

――「いろんなこと」というと?

沼田さん:ん…、大事なことほど小さい字で書いてあるとか(笑)、困った時は枠の外を見ろとか?(笑)

阿部さん:われわれの開発はブラックボックスがほとんどないんです。ハードの仕組みはわかっており、ドライバ(※1)もバイナリでなくソース提供ですし、I/Oポートを叩く(※2)とLED(※3)が光ったり、モーターが動いたりしますから、問題は必ず解決できるんです。しんどいというよりは逆にはっきりしていて(アプリケーションの開発よりも)やりやすいと思いますね。

  • ※1)ドライバ:ハードを制御するためのプログラム ※2) I/Oポートを叩く:ハードに命令を送ること ※3)LED:発光ダイオード

――なるほど。ところでみなさんははじめから組込み系だったんですか?

阿部さん:私はアプリケーション系から組込み系へ移りました。はじめて自分の書いたプログラムでLEDが光ったときの感動が忘れられず、今日に至っています。

――画面に「Hellow Word」って表示されただけでもうれしいですから、目の前のものが光ったり動いたりしたら感動するでしょうね。皆さんはいかがでしょう?

庄井さん:学生のときはハードがしたかったんですが、ソフトの授業を受けてみたらそっちも面白いなと思って。だから今もバイクや機械をいじるのは好きです。

渡辺さん:私もはじめは組込み系ではなかったですね。
ソフト開発というとスーツを着て、大きいコンピュータの前で黙々とキーボードを叩いているイメージを持っていましたので、ふと気づくと「なんか違うな」と。(笑)
昔の秋葉原には電子部品屋さんがたくさんあって「あんなの買う人いるんだろうか」と思ってたんだけど、今は普通に机の上に転がってますから不思議です。

藤田さん:渡辺さんは工具のドライバーが好きなんですよ。あれ、結構高いやつだよね。

渡辺さん:高いんですけど、そのメーカーのドライバーじゃないとダメなんです。

藤田さん:わかるなぁ〜。僕も一回使わせてもらってからは絶対それ貸してもらうもん。ネジを回したときに手に伝わってくる感触がやめられない。

渡辺さん:でしょう?男はそこにロマンを感じるんです。(笑)

座談会の面々

左から

藤田泰孝さん(データテクノロジー株式会社):「日本発の新しいものを若者たちと作っていきたいですね」

阿部守さん(データテクノロジー株式会社):「自分のプログラムでLEDが光ったときの感動は忘れられません」

庄井信一さん(ジェイアールエム株式会社):「見えないところで一生懸命働くソフトを作るのが楽しいんです」

渡辺貴之さん(データテクノロジー株式会社):「ドライバーから伝わる感触に男のロマンを感じます」

石原康二郎さん(データテクノロジー株式会社):「入社して3年間、毎日何かしら新しいことに出会います」

沼田章弘さん(有限会社テクテク):「いろいろなものを開発してきました。ロボットを作っていたこともあります」


組み込み技術者たちからのメッセージ

――では最後に、みなさんの夢や、これからの若者たちへのメッセージなどがあればお聞かせください

藤田さん:私はパソコンとネットワークではなく、組込み機器とネットワークがつながったような仕組みを作って世界的に広めたい。
それにはCPUコアが必要で、今はイギリスのメーカーがかなりのシェアを占めています。
まずはそれに代わる日本オリジナルのCPUコアを作るところからになりますが、「日本の技術がここに入ってるんだ!」というものを若者たちと作ってみたいと思っています。
(石原さんを見て)で、若者たちが作って世界中に広まった頃に「ぼくが言い出したんだ」って名乗り出ようかなと。(笑)

石原さん:えっ、僕ですか?まだまだ、日々勉強です。(^^ゞ

渡辺さん:私は、モノ作りが海外へ流れていく傾向にあることに危機感を覚えます。 それと、ハードとソフトが組み合わさった組込みありきのモノづくりが日本の技術だったはずなのに、若いモンがだんだんアプリケーション寄りに偏っていってることも心配です。

沼田さん:生きてるうちは食ってかないといけないので(笑)、組込みがなくなると困ります。永遠に続いてほしいです。

庄井さん:今、組込み部品は大抵のものに入っているんですが、そのことに気付いている人が意外に少ないのがさみしいなぁと思います。もっと興味を持って欲しいです。

阿部さん:私もそう思います。組込みの技術なしでは社会は成り立たなくなっています。設計次第でどんなものでも作れる組込みという技術に気付いて欲しいですね。
あと、少子化が進み、国内マーケットはますます減ると思うので、エンジニアは海外市場を見ていく必要があると思いますね。英語ができて当たり前の時代になりつつあります。 そしてそんな世界で生きていくには、いかようにもできるアイデアや発想力が必要だと思います。これからの若者に期待するのはそういうところですね。

――みなさん、今日はお忙しいところありがとうございました。

MIFESが彼らのお手伝いをしているというだけで、彼らが作っている基板が「身内」に思えてしまうから不思議だ。
彼らにとってテキストエディタは、テスト用の機器と同じ道具のひとつでしかない。
しかしだからこそ、渡辺さんが「これでなければ」とおっしゃる"ドライバー"のように、MIFESも技術者たちに「これでなければ」といわれる道具でありたいと思う。(聞き手:メガソフト・Z)

【レポート後記】

私を含め全員緊張気味で始まった座談会でしたが、はじめて聞く興味深いお話が満載で、あっという間に時間が過ぎていました。
取材の素人の私は、レポートを書くために毎回録音させていただいているのですが、何度聞いても聞き入ってしまい、なかなか原稿書きが進みませんでした(録音の状態が良ければそのまま公開したいくらいです)。

座談会の最後には皆さんからMIFESへのご要望も伺い、Windowsアプリの開発とは違う開発状況が見えてきて、大変参考になりました。


さて、MIFESチームではユーザーの皆様からのご要望を受け付けています。
サポートページの「ご要望・不具合受付」フォームよりお寄せください。

「この機能のここをこうしてほしい」というご要望はもちろんですが、「うちはこんなファイルを編集するからこんな機能が必要だ」といったご要望もお聞かせください。
お寄せいただいたご要望は、社内データベースに記録し、開発部門で参考にさせていただいています。

  • ※「ご要望・不具合受付」から頂戴しましたご要望へは返答致しません。ご了承ください。
  • ※本レポート内のすべての情報は取材当時(2009年4月)のものです。
  • ※本レポート内の製品名などは一般に、各社の商標または登録商標です。

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