新築で家を建てる人が少なくなっている一方で、中古の戸建てやマンションを買って自分好みにリフォームする人が増えているので、リフォームの提案機能を強化した製品を開発しよう。
そんなきっかけでスタートした3D住宅リフォームデザイナーでしたが、リフォームの世界を知るにつれて、リフォーム会社といってもいろいろなんだな、ということが見えてきました。
昔、詐欺まがいのリフォームをする事件が話題になったので、リフォーム会社を色眼鏡で見る人も少なくありません。逆に優秀で誠実な仕事をするリフォーム会社がたくさんあるのに、その実力をうまくお客様に伝えられていないのではないか、と感じることもありました。
なので、優良なリフォーム会社がその技術をもっとわかりやすくお客様に伝えることができる、そんなツールを目指して3D住宅リフォームデザイナーの開発に取り組みました。
今回の製品にはリフォーム提案に役立つ新機能をたくさん用意しました。
まず新たに追加した1000点の素材データ。これらはリフォーム前の古い住宅を再現するために用意しました。
リフォームで一番多い水回り関係の「ビフォー」を作れるように便器やキッチン、お風呂など、「昭和」な雰囲気のパーツを用意しました。
再現しにくかったリフォーム前の状態が簡単に作れます。この「昭和」パーツは家具や照明器具も揃えたので、レトロなカフェなどの店舗デザインにも使ってもらえると思います。
「昭和」パーツでリフォーム前のモデルを作成しても、従来の3Dマイホームデザイナーの表現ではピカピカの家になってしまいます。そこで今回は、わざと古く見せる手法としてエイジングというフィルタを用意しました。「昭和」パーツとエイジングを組み合わせることで、使い込まれた雰囲気を見せることができます。エイジングとあわせてセピアやモノクロも用意して、お好みで使い分けてもらえるようにしました。モノクロフィルタは新築提案の時にも、カラーイメージを考えてもらう時などに使ってもらえるかもしれません。
そうやって「古さ」を演出した「ビフォー」と最新設備で生まれ変わった「アフター」を際立たせて見せる機能が2画面リンクです。現状とリフォームプランを同じ目線で見比べることができて、しかもリアルタイムで動き回れるので、とてもインパクトがあるプレゼンテーションができると思います。
この2画面リンクは、新築でも二つのプランを同時に見せるような使い方もアリじゃないでしょうか。
こういった「見せ方」の機能のほか、リフォームでは造作家具や現状の改造も多くなるので、「作る」機能も強化しています。
3D操作画面に直接形状を書き込んで3Dモデルが作れる「押し出し多角形」機能や、同じく操作画面上で3Dパーツを簡単にばらせるパーツ階層の「グループ解除」機能、自作した3Dモデルを平面図上で正しく表現できる「シンボル作成」機能など、既存製品のユーザー様から要望をいただいていた機能強化も実現しました。
▲押し出し多角形ツールで造作家具を製作
僕が担当したのはリフォーム前の状態をいかにして効率的に作れるようにするか、それを効果的に見せれるようにするか、という部分です。具体的にはリフォーム前の家を作るための素材を揃えることと、リフォーム前と一目でわかる視覚効果を考えることですが、どちらもこれまでの製品開発とは全然勝手が違って、けっこう大変でした。
まず、効率よくリフォーム前の状態を作るのに必須なパーツづくり。
従来なら住宅設備のパーツを作るにしても製品の写真や図面、サイズなどの資料が揃えやすいのですが、今回制作したのは20年も30年も前の機器です。
▲現代の製品資料
なので、どんなものが使われていたのか、から調べることになりました。
図書館で文献にあたったり、Webで昔の家の写真を探したり、さらには80年代のホームドラマを見返したり。
そのうち街を歩いていても古い家が気になったりして(笑)。
そんな調査を2か月ぐらい続けて、作るべきパーツやテクスチャを選定していったんですが、次に困ったのが「サイズ」なんです。元の資料はほとんど写真だけなので、実際どんな大きさなのかがわからない。これにはまいりましたが、実際のリフォーム提案に使うパーツですからいい加減なものは作れません。いろいろとネット検索してLIXILさんのサイトに昔のカタログのバックナンバーを見つけた時はほんとにうれしかったです。
こんな苦労を重ねて作り上げたパーツやテクスチャ1000点はどれも自信作なので、これを使ったパースでたくさんのリフォームプランが生まれるのがとても楽しみです。
▲LIXILさんのバックナンバーカタログ
もう一つ僕が担当したのがリフォーム前の状態を効果的に見せる表示方法。
壁紙にしろ、設備機器にしろ「使用感」があるのがリフォーム前の状態ですが、これまでの製品ではいかにきれいに表現するかを追求してきたので、正反対の表現を開発するというのがこれまでにない挑戦でした。
パーツそのものを一個づつ「使用感」のあるように作るのは、データ量が重くなるのでできません。そこで考えたのが3D画面全体にフィルタをかけて「使用感」を出す方法です。このフィルタの制作も僕がやりました。これも試行錯誤の連続で、最終的には50種類以上のフィルタを試して、一番いい感じで古く見えるものを5種類選びだしました。それぞれ味がある見せ方になるので、シーンに応じて使い分けてもらえるとうれしいです。