【プレゼンの環境について】
プレゼンは、説明する人=Aと説明される人=Bとの関係によって成り立ちます。
Aは一人の場合や複数の場合があります。説明する内容が多岐にわたるときは、それぞれの担当者(専門家)が入れ替わり説明することもあります。
Bも一人の場合や複数の場合があります。Bが組織やグループのときは、プレゼンの会場に多数の人(役員、家族)が出席することもあります。
いずれにしろ、Aが複数でも取りまとめるのは一人A1であり、その他はA1に従属することになります。また、立場の異なる複数のBのそれぞれの要求全てに、Aが対応することは困難です。Bが複数の場合においても、決定権を持つ人間は実質的には一人B1となります。
従って、プレゼンはA1からB1への説明に単純化できることが多いといえます。
しかし、Aが集団の中のB1が誰かを見抜くのは、経験上最も難しいことです。例えば、家を新築する際の打ち合わせで夫が主に発言することから、AはB1が夫だと判断して計画を進めていきます。ところが、実は決定権は妻にあるということがかなり後になってからわかり、計画が振り出しに戻るということがよくあります。
プレゼンは実施する環境に影響を受けることが多いので、まずその環境について整理します。
BにAの事務所などに来てもらい、そこでプレゼンします。話を優位に運ぶために都合が良いでしょう。茶室に客を招き、躙口(にじりぐち)から客を入れる状況を想像してください。最初から主人がイニシアチブを取ることができます。あらかじめいろいろな状況をシミュレーションしておき、予期せぬ事態に備えることもできます。
建築家によっては、打ち合わせは必ずAのエリアに来てもらい、あまりおすすめではない仕上げはサンプル帳からあらかじめ外しておく、などの対策もしておくそうです。
Bの社内などで発表する場合は、環境や設備が不明なことが多く、当日機器の操作方法がわからなかったり、予期せぬ事態に直面し、うまく対応できないことがあるため、できれば避けるのが無難です。
コンペのような形式で複数のプレゼンがある場合、以下のことが重要です。
AとBが対等な立場で向き合うことができます。工事に支障をきたさないよう手早く行う必要がありますが、その場で問題点を確認できるので結論を出しやすいというメリットがあります。
作品(3Dデータなど)をクラウド上のサーバーに上げ、Bはソフトに付属するビューアを実際に操作し、内容を確認することができます。Bが見たいところを自由に見ることができるので満足度が高い方法ですが、Bにある程度のスキルが必要とされます。
移動の時間がなくてすみ、時間も守られる率が高い方法です。上下関係も比較的フラットになります。Bのインターネット環境に左右されたり、感情が伝わりにくい傾向があります。
逆に感情が増幅して伝わることもあるので、手応えがなくても通常よりも声を大きくしたりしないように、穏やかに話す必要があります。
状況が許せば、アバターでの参加も座が和やかになるかもしれません。
仮想空間でのプレゼンは、没入感があり魅力的です。アバター同士の会話になるので、プレゼンの苦手なAは緊張しなくて済むメリットがあります。メタバース上で、大抵のビジネス(オフィス、店舗、イベントなど)が、建築法規などに制限されず、ローコストで実現できるようになるのはもう時間の問題です。
デメリットとしては、Bがメタバース上の作品で満足してしまい、実世界で建物を建てる必要がないという判断をする危険があります。
次の記事
様々なプレンゼンテーション【プレゼンの媒体と素材】
前の記事
番外編:失敗しないプレゼン法
作者プロフィール
一級建築士事務所 河村工房 主宰 河村容治
博士(美術)、日本インテリア学会名誉会員、元東京都市大学都市生活学部教授
主な建築作品:朝霞市コミュニティセンター、氷川生花市場、下北沢MTビル(住宅+商業ビル)、集合住宅「季庵」
建築からインテリアまで、CADをフル活用した設計を行う。クライアントの要望を大切にした、キメの細かい住宅設計を得意とする。
設計活動のほか、女子美術大学、武蔵野美術大学、東京都市大学などでインテリア教育にたずさわる。 著書に「とびきり贅沢なプレゼンテーション」、「やさしく学ぶインテリア製図」(最新刊、共著)など。